光の差す暗闇で私は音を奏でたい
そう言って、彼は私達に背を向けて歩いていく。
「ま、待って!」
私は彼の手首を咄嗟に掴む。
それに驚いたのか、彼は私の方を振り返った。
「……如月?どうした?」
「えっと……」
自分でも、何故彼を引き止めたのかよく分からなかった。だけど、まだ行ってほしくないって思ってしまった。
「わ、私の家上がっていかない?」
何言ってるんだろう、私……。
今日出会ったばかりの人にこんな事言うなんて、本当におかしい。
そして、異性だというのに家にあげるとかどういう神経してるんだろうか、私……。
そんな事を考えてると、段々自分の顔が蒼白になっていくのを感じた。
それをぽかんと見ていた彼が、いきなりふっと笑い出した。
「如月、面白すぎだろ。自分で誘っておいて、何で顔面蒼白になってるんだよ。意味わかんねぇー」
彼はそう言って、はははっと笑う。それが恥ずかしくて、顔がかぁーっと熱くなる。
「……そんなに笑わなくても」
「悪い。つい笑ってしまった。……如月からそんな事言ってくるとか思ってなかったから、すげぇびっくりした」
少しだけ、彼の方を見る。彼の表情は、会った時よりも優しい表情をしていた。
その表情に、またドキッとしてしまう。
「いいよ。行くよ、如月の家。というか、一回は行ってみたいとか思ってたし……家に連れて行ってくれるなんて光栄だ」
「……分かった」
彼の返事を聞いてから、遥貴さんの方へと向き直る。
「遥貴さん。聞いていたと思うけれど、この人もお屋敷に連れて行ってくれる?」
遥貴さんはすごく驚いていたが、すぐに微笑んだ。
「承知しました。では、そろそろ行きましょうか」
遥貴さんはそう言って、車のドアを開けてくれる。
私と彼は、その中に乗り込んだ。
そして、車が路上を走り出す。
……今日の私は、少しだけいつもと違う。
これは彼と出会ったからなのだろうか?
分からないけれど、でも……。
ほんのちょっとだけ、私の止まっていた針が動いた気がしたんだ。