光の差す暗闇で私は音を奏でたい
この業界で生き残るためには、技術だけではなく、精神面も強くなければならない。
いわば、弱肉強食の世界。色々な努力をして、苦痛を耐え抜き、勝ち抜いたものだけがこの世界の君臨に立つ。コンクールを恐れていた私だけれど、今もずっとピアノが大好きだ。
だから私は、この壁を乗り越えなければならない。
「……少しずつ、本当の幸音に戻ってきたな。きっと幸音ならできる。残りの時間も練習頑張れよ」
「ありがとう」
コンクールまで、あと数週間。残りの時間で私が出来ることは、ただただ覚えた曲をひたすら磨くのみ。
……今の私は、前のように明るい音を出すことは出来ない。だけど、もう一度あの舞台からの景色を見てみたいから。
あの舞台の上でまた、ピアノを弾いてみたいから。
だから私は過去から一歩踏み出すんだ。