光の差す暗闇で私は音を奏でたい
第三章 再び
……コンクール当日。
私は楽譜を持って、会場の前に立つ。
……ついに本番の時が来た。
緊張感が漂っているのが、外にいても伝わってくる。
この感じ、すごく懐かしいな。
また私は、本当に舞台の上に立つんだ。
そう思うと、急に今までなかった不安が押し寄せてきた。……しっかりしなきゃ。
私は深く息を吐いた。
気持ちを整えて、会場へ入ろうとした時、後ろから肩に手を置かれ、思わずビクッとしてしまった。隣には、夏向が立っていた。
「幸音、おはよ。すごい緊張してるみたいだけど大丈夫か?」
「……うん、大丈夫」
「そういえば、遥貴はどうしたんだ?」
「ちょっと急用ができたみたいで……私の番までには戻ってくるって言って何処かに行ったよ」
「そうか」
そう言って、私達は会場の中へと入っていく。その途端、そこにいた人達が私の方へと視線を向けた。
”あれって、如月幸音じゃない?”
”またここに戻ってきたの?”
”もうとっくにピアノ辞めたのかと思ってた”
”親が審査員だから来たんじゃない?”
”うーわ、それは引く。反則だろ”
”ここにもうお前の場所はないっての”
たくさんの影口が私の耳に入ってくる。その中に、私を褒める言葉なんてどこにもなかった。……やっぱり、ここの人達はすごく私の事が嫌いなんだな。
視線を落としていると、隣を歩いていた夏向が急に立ち止まった。
「夏向、どうし……」
「あの、うるさいので静かにしてもらっても良いですか?すごい迷惑だ」
私が話そうとした時、夏向は私の言葉を遮ってロビーにいる人達に向けてそう言った。
夏向の言葉に周りが静まる。
「あと、幸音はそんな奴じゃないんで」
「その通りだよ。全く皆さんは見る目がないですね」