光の差す暗闇で私は音を奏でたい
~幸音目線~
控え室に着き、私は椅子に腰掛ける。
ここから四つ前の席には、葵が座っていた。
私は一度見た出演者名簿をもう一度開く。
よりにもよって、私の順番は葵の次だった。
葵の次に演奏するのは、ものすごくプレッシャーがかかる。
……でも、落ち着かなきゃ。私はこの日のために一生懸命毎日何時間も練習してきたんだ。
この気持ちを皆に届けて、また前のように温かい拍手を貰うために、私はこの舞台に立つのだ。
それに、今日は私の演奏を楽しみに待ってくれている人がいる。
その人たちのためにも、私は全力で舞台のピアノを奏でるんだ。
そう思っていた時、葵が呼ばれた。
私も……次に呼ばれるんだ。
緊張で、鼓動が速くなるのが分かる。
……落ち着かなきゃ。
私が深呼吸をして横を向くと、何故か葵はこちらを見て少し笑っていた。
それに、私は思わずビクッとする。
……笑われた。
その事に少し恥ずかしく思いながらも、呼吸を整える。
葵が行ったことを確認すると、私は少し早いが葵の演奏を聞くために舞台裏へと歩き出す。
扉を開けて中に入ると、ちょうど葵がピアノの前の椅子に腰掛けて弾く所だった。
そして、その瞬間葵の音色が舞台上に響き渡った。
曲名はベートーヴェンの「月光」第一楽章
全体的に静かな旋律で作られている曲だ。
その曲は、葵にすごく合っていた。
そして、ここ最近葵のピアノを聞いていなかったが、前よりもっと上手さが増しているのが分かる。
ペダリングの上手さ、音の正確さ、強弱の付け方……そして、音楽の構成力
全てにおいて、またひたすらに磨かれていて完璧度が上がっていた。
昔から完璧に弾いていたけど、ここまでも完璧に弾けるのは、多分葵くらいだと思う。
そして、ピアノにちゃんと自分の気持ちを乗せている。