光の差す暗闇で私は音を奏でたい
数十分後、遥貴さんが運転していた車は私のお屋敷へと到着した。
遥貴さんが車から降り、私達の方のドアを開けてくれる。
「お嬢様、夏向様、お屋敷に到着致しましたよ」
私達は遥貴さんの言葉を聞いて、車から降りる。
「……やっぱり、如月の家って近くで見ると本当に広いお屋敷なんだな」
彼は、上を見上げながらそう呟く。
私の事、本当に前から知っているんだな……。
このお屋敷の事を知っているなんて、大体いつも本気でお母様のファンだった人達しか知らないはずだから。
でも、彼は……私だと言ってくれた。
お屋敷の中に入り、自分の部屋へと足を進める。
部屋の前に辿り着くと、遥貴さんが扉を開けてくれた。
「後で、茶菓子と紅茶をお持ちします。では、お二人でごゆっくり」
遥貴さんは私達が部屋に入った事を確認し、そう言って扉を締めて行ってしまった。
部屋に取り残された私達の間に、少しの沈黙が流れる。
……私が誘ったのに、すごく気まずい。
これから、どうすれば……。
ぐるぐる考えていると、彼が口を開いた。
「如月の事、少し聞いてもいいか?」
「……良いけど」
「じゃあ、如月って何で公立の学校に通っているんだ?如月ぐらいの人だったら、大体は私立の音ヶ崎学園に行くんじゃないのか?」
その言葉に、私は思わず視線を落とす。
……音ヶ崎学園。私立で、音楽家としてプロになりたい人達の育成を中心として建設された小中高一貫校の学校だ。
……私も、中学生の頃まではそこに通っていた。
でも、私にとってその学校は嫌な思い出でしかない。
「……中学の頃までは、私も音ヶ崎に通っていた。だけど、あそこは私にとって苦しい場所でしかなかった。だから私は、公立の学校に変えたの」