【完結】一夜の過ちで身籠ったら、夫婦が始まってしまいました。




 「……朱鳥!」

 するとその時、那智さんがわたしの方に走ってきた。

 「……え?那智、さん?」

 どうして……? どうして、来てくれたの……?

 「一緒に、帰ろう」

 「え……? でも、仕事の方は……?」

 「大丈夫だよ。小児科なら、俺がいなくてもなんとか回ってるし」

 「……でも、いいんですか?」

 「いいんだ。……俺がそうしたいんだ」

 「……ありがとう、ございます」

 こんな時だからこそ、那智さんに側にいてほしいという気持ちはあった。
  
 那智さんには、わたしの気持ちが見透かされている気がした。

 「……え?」

 那智さんは、震えるわたしの手を優しく握ってくれた。そしてその手をしっかりと離さないように、ぎゅっと握り直した。

 「……帰ろう、朱鳥。俺たちの家に」   

 「……はい」

 ふたりで手を繋いで歩くこの道は、とても長く感じた。……だけど少しだけ安らぎと安心を与えてくれたような気がした。

 
< 116 / 125 >

この作品をシェア

pagetop