【完結】一夜の過ちで身籠ったら、夫婦が始まってしまいました。
「……すみません、何でもありません」
那智さんはふと我に返ったように、わたしから離れて背を向けて歩きだしてしまった。
「……那智さん」
那智さんは、どうしてわたしに好きって言ったのだろうか……。成り行きで言ったのか、それとも……。
わたしには那智さんの考えていることが分からない。那智さんが何を思ってそんなことを言っているのか、全く分からないのだ。
だけど少しだけ、心の奥が締め付けられるような痛みになって、ちくっとしたように痛かった。
だけどこの痛みの正体が何なのか、なんとなく分かっていた。
そして次の週の月曜日、わたしは会社へと出勤すると、麻美に那智さんのことを全部話した。食事の時に生んでほしいと言われたことや、帰り際に好きだと言われたことも。
全部包み隠すことなく話すと、麻美は深呼吸してから話しだした。「那智さん、朱鳥のこと本当に好きなんじゃない?」と。
「え?」
「那智さん、朱鳥と本気で家族になりたいって、思ったんじゃないかな?」