【完結】一夜の過ちで身籠ったら、夫婦が始まってしまいました。




 「ただいま、朱鳥」

 そんなことを考えているうちに、仕事を終えた那智さんが帰ってきてしまった。

 「おかえりなさい、那智さん」
 
 それでも那智さんに心配かけたくなくて、精一杯の笑顔を見せた。 だけど那智さんは、そんなわたしの表情を見て、一言こう言った。

 「朱鳥、辛いんだろ?……だったら無理して笑わなくていい」

 その言葉を聞くだけで、胸の中はいっぱいになって。思わず下を向いてしまった。

 那智さんはカバンをカーペットの上に置くと、わたしをそっと抱きしめてくれた。そして頭を撫でてくれた。

 「こんなに辛いのに、無理をさせてしまってごめんな? もう少し早く、朱鳥の辛さを分かってあげられればよかったのにな?……本当にごめん」

 「……那智さん」

 那智さんはわたしのことを1つも責めなかった。そしてわたしにこんなにも優しく接してくれる。本当にありがたい。
 
 そして嬉しい……。なのにわたし、那智さんの優しさに甘えてばかりいて、何も恩返しが出来ていない。申し訳無い……。

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