私に婚約破棄を告げた王子が盛大にフラレました
ヒーローまさかのYOUだった
「な……っ、なっ、な──?!」
クラウディアへ愛を捧げたポーズのまま立ち上がることもできずに震える王子の顔は、気の毒なくらい赤い。
仮にも乙女ゲームのメインヒーローだったはずの彼は今や「な」しか発しない電池切れの玩具みたいだ。
けれどそんな哀れな男など存在しないかのように『彼女』は紫色の瞳で私だけを見つめて歩いてくる。
マーメイドラインの青いドレス。顔周りを残して複雑に結い上げられた銀の髪。少し尖った耳を飾る夜空みたいな宝石。突き刺さる大勢の視線にも怯まない凛としたその姿。
(綺麗……)
数分前まで婚約者だった王子のことも、婚約破棄からのプロポーズというイベントにざわめいていた衆人のことも一瞬で頭から吹き飛んでいた。クラウディアのことしか、目に入らなかった。
「お前っ! 一国の王子を侮辱してただで済むと思っているのか?! エルフの国と人間界の関係がどうなっても良いのか?!」
…………おい、マジか。王子、マジか。
あんた、そんな陳腐なチンピラみたいな台詞マジか。原作の残念シナリオでもそこまで酷い台詞無かっただろやっぱバグか。
クラウディアと私の二人きりの世界を壊すように、ライターが適当に1分で台詞考えました。みたいな王子の叫びが響く。
「えー……」
「うわぁ……」
「それはさすがにちょっと」
成り行きを見守っていた観衆もドン引きだ。
「──チッ」
え。ねぇ、今クラウディア舌打ちした? その女神様みたいな見た目で舌打ちした? クラウディア、そんなキャラだった?
私といる時のクラウディアはいつも優しくて理想のお姉さま!って感じだったよね?
「人間如きが……」
聞こえた! ヒロインの口から絶対出ちゃいけない悪役みたいな単語が聞こえた! 聞こえたよ?!
真っ赤を通り越して黒くなり始めた王子の顔。
それが踵を返したクラウディアが彼の耳元で何かを囁くと──白くなって蒼くなった。
「フィーナ、行きましょう?」
ガックリと項垂れた求婚者を今度こそ視界から抹消したクラウディアが優しく私の手を取る。
「こんな所、フィーナがいる必要も価値も無いわ」
たおやかに、けれども力強く私を引き寄せたクラウディアが転移魔法を詠唱する。紅い唇から紡がれる、心地好い音。
キラキラと金の光の粒が私たちの周りを舞い始め、足元には眩しく輝く魔方陣が浮かび上がる。魔法学の教師である賢者ですら描けないであろう美しい紋様。
「クラウディアっ行くって、どこへ?!」
「そんなのもちろん、エルフの国よ」
クラウディアの答えと共に、魔方陣が一層強く光を放ち、もう目を開けていることができない。瞼を閉じても感じる、肩に触れるクラウディアの温度の低い掌。
「それでは改めまして皆様。ごきげんよう」
クラウディアの別れの挨拶を最後に、私たちはパーティー会場から姿を消した。
クラウディアへ愛を捧げたポーズのまま立ち上がることもできずに震える王子の顔は、気の毒なくらい赤い。
仮にも乙女ゲームのメインヒーローだったはずの彼は今や「な」しか発しない電池切れの玩具みたいだ。
けれどそんな哀れな男など存在しないかのように『彼女』は紫色の瞳で私だけを見つめて歩いてくる。
マーメイドラインの青いドレス。顔周りを残して複雑に結い上げられた銀の髪。少し尖った耳を飾る夜空みたいな宝石。突き刺さる大勢の視線にも怯まない凛としたその姿。
(綺麗……)
数分前まで婚約者だった王子のことも、婚約破棄からのプロポーズというイベントにざわめいていた衆人のことも一瞬で頭から吹き飛んでいた。クラウディアのことしか、目に入らなかった。
「お前っ! 一国の王子を侮辱してただで済むと思っているのか?! エルフの国と人間界の関係がどうなっても良いのか?!」
…………おい、マジか。王子、マジか。
あんた、そんな陳腐なチンピラみたいな台詞マジか。原作の残念シナリオでもそこまで酷い台詞無かっただろやっぱバグか。
クラウディアと私の二人きりの世界を壊すように、ライターが適当に1分で台詞考えました。みたいな王子の叫びが響く。
「えー……」
「うわぁ……」
「それはさすがにちょっと」
成り行きを見守っていた観衆もドン引きだ。
「──チッ」
え。ねぇ、今クラウディア舌打ちした? その女神様みたいな見た目で舌打ちした? クラウディア、そんなキャラだった?
私といる時のクラウディアはいつも優しくて理想のお姉さま!って感じだったよね?
「人間如きが……」
聞こえた! ヒロインの口から絶対出ちゃいけない悪役みたいな単語が聞こえた! 聞こえたよ?!
真っ赤を通り越して黒くなり始めた王子の顔。
それが踵を返したクラウディアが彼の耳元で何かを囁くと──白くなって蒼くなった。
「フィーナ、行きましょう?」
ガックリと項垂れた求婚者を今度こそ視界から抹消したクラウディアが優しく私の手を取る。
「こんな所、フィーナがいる必要も価値も無いわ」
たおやかに、けれども力強く私を引き寄せたクラウディアが転移魔法を詠唱する。紅い唇から紡がれる、心地好い音。
キラキラと金の光の粒が私たちの周りを舞い始め、足元には眩しく輝く魔方陣が浮かび上がる。魔法学の教師である賢者ですら描けないであろう美しい紋様。
「クラウディアっ行くって、どこへ?!」
「そんなのもちろん、エルフの国よ」
クラウディアの答えと共に、魔方陣が一層強く光を放ち、もう目を開けていることができない。瞼を閉じても感じる、肩に触れるクラウディアの温度の低い掌。
「それでは改めまして皆様。ごきげんよう」
クラウディアの別れの挨拶を最後に、私たちはパーティー会場から姿を消した。