その行為は秘匿
「田中は、精神科での仕事ともう1つ、ある研究をあの病院でしてたんだ。その内容は極秘らしいんだけど、俺の友達が調べた範囲だと、病院で亡くなった人の身体を実際に使って研究しているとか。」
「え、でもそんなことしたら、親族の人たちにばれちゃうよ。」
「それが、あまり家族関係がよくない人たちを対象にしているらしい。例えば、親が再婚していたり、本当の親じゃなかったり、すぐに親族が病院に行ける状況じゃなかったり。」
「それだったら、普通より少し遅れて知らせることができるってことか。」
「朱里の親は、単身赴任だって言ってたよな?相当遠い外国とか、親子関係が悪かったりしたら、すぐには帰ってこれないはずだ。」
「それが、本当だったら相当やばいんじゃ…。」
「うん。かなりの罪を犯している可能性もある。」
「朱里も田中に結構な信頼をおいてるだろうし、田中にとって朱里は実験に使いやすい最良の実験体…。」
考えるだけで、吐き気がした。
「俺の今日の収穫はこんなもんだな。お前は?」
「私は…」

「2人の関係について。」
私は、田部先生から教えてもらったことについて郁弥に話した。 
「でもある日、2人は喧嘩をしてしまったの。」
「え、どんなことで?」
「恋愛で…。」

2006.4.30
『ねえ、私ね。好きな人できたの。』
『え、だれ?この学校の人?』
『ううん、菜々もよく知ってる人だよ。』
『もしかして…田中先生?』
『…うん。この前の診察で、手握ってもらっちゃったの。』
『なにそれ…。私も先生のこと知ってて、そういうこと言うの?そこでも私も苦しめるの?』
『そんなこと、私知らなかったよ。苦しめるつもりもない。』
『うるさい!ここだったら静かに普通に生活できたのに、あんたのせいで台無し!私の前から消えて!
あ…はぁ…ぁ…』
『どうしたの!?あ!菜々ちゃん!!今日の分の薬は!?飲んでないの?』
『あんたのせぃ…ぁ…はぁ…』


「そのまま朱里も過呼吸になったけど、すぐ保健室から出て行っちゃったって。
菜々が帰ったのを見計らって、荷物を取りに戻ってきたらしいけど。」
パニック障害は、普通より物事を過度に捉えてしまう症状もあるという。それがその時の菜々に出たのだろう。
「それで、関係が切れたのか。」
「で、考えたんだけど、あのノートを書いたのは菜々だと思うんだ。」
「え、なんで?」
「昨日真ん中くらいのページに消し跡があって、見てみたら、先生が好き。頑張らなきゃって書いてあった。」
「なるほどな…。でもなんでわざわざ。」
「分からない。」
「まあ、今日は終わろう。あんまり考えてもこんがらがるだけだし。」
「そうだね。電車の時間検索する。」
私達は帰る仕度をした。
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