その行為は秘匿
少しだけ沈黙が流れた。
全部吐き出させるんだ。

「あなたは、佐々木朱里さんを殺害しましたね。」
「急に何を言い出すんですか?失礼ですよ。」
田中の顔から、笑顔が消えた。
「証拠でもあるんですか?私が朱里さんを殺したという証拠。」
私は一度、息をついた。

「今まで、いろいろな情報を集めてきました。
あなたは、この病院で亡くなった人の遺体を使って、実験を行っている。実験内容に関係なく、これは立派な犯罪です。また、亡くなった人は、誰でもいいわけではなく、家族関係が悪い人、亡くなった報告が遅れても大丈夫そうな人を対象にしていた。
朱里さんも同様に両親が単身赴任で、亡くなってもすぐ病院に駆けつけられるような状況ではない。そこを狙ったんですよね。」
「ご家族と関係が悪い患者さんは、大勢いらっしゃいます。わざわざ殺すなんてありえない。」
「ですが、実際、朱里さんの死亡方法は、医者から処方された薬の服用だったんですよ?」
「そんなの、一気に薬を飲んで死んだとかでしょう。」
「それが違うんです。精神病の薬と他に頭痛薬も彼女はもらっていました。日々のストレスで、頭痛も酷かったんでしょうね。精神病の薬より頭痛薬を飲むほうが死にやすい。しかし、それで死をはかった場合、普通なら大量に飲むと吐血してしまうんです。しかし、あのトイレには吐いた血の跡は残っていなかった。となると、朱里さんは精神病の薬で死んだことになる。しかし、田部先生に話を伺ったところ、朱里さんはほとんど毎週病院に通っていた。
発作が来たときだけに飲む薬をもらっていたから、毎週行くんだったら、さほどの量ではないでしょう。異常な量を服用しないと、死ぬことはできないですからね。」
「…では、なんだと言うんだ。」
「簡単な話です。全く別の薬を飲んだんですよ。しかも誤って。」
郁弥は、あの彫刻刀の箱から薬袋を取り出した。
「え、なぜそれが…」
「見覚えがありますか?あなたが処方した薬ですものね。ここにしっかり病院名も名前も書かれている。」
「これは言い逃れできないな。」
郁弥が鼻で笑った。
「"服毒"というのはご存知ですよね?1錠でも飲めば、吐血などせず眠るように死ぬことができる。」
「血を採取したい身としては、吐血なんてされたくないよな?」
田中の表情に焦りが見えた。
「お前、なんでそれを…。」
「情報網が盛んなんでね。」
田中は下を向いて、最後の気力を振り絞って対抗した。
「しかし、仮に私が殺したとしても、遺体を回収できないだろ。いつ死ぬかもわからないのに。」
「それは、私も悩みました。どうすれば、誰にも見つからず回収できるか。」
「…桜田菜々さんに協力を仰ぎましたね?」
「な、なんで…。」
「あなたは途中で菜々さんからの好意に気づき、協力を頼んだのです。どうせ、体を触るでもしてすり寄ったのでしょう。期待に答えたい、あいつが死ねば先生は自分のものにできると、菜々さんも受け入れました。
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