その行為は秘匿
「菜々さんは、いつも朱里さんが薬を飲むときは旧校舎の3階のトイレに行くことを知っていたんです。先にトイレに待機しておいて、個室から朱里さんの様子をうかがった。薬を飲んで倒れたところを外で待機していたあなたに合図を送り知らせた。
薬袋は、見つからないようにどこかに隠すように言われていたのでしょう。あなたが遺体を回収している間、菜々さんは事前に用意しておいたこの箱に隠して鍵をかけた。本当ならこの鍵も隠しておくはずでした。しかし、ここで誤算が発生。2人の親交を深めすぎたのでしょう。菜々さんは朱里さんに情が移り、隠しておくはずの鍵を第三者に見つかりやすいカバンに入れたのです。『学校』と書かれた紙と一緒にね。そして、このノートを書いたんです。誰かが、事件の真相を突き止めて、気づいてくれるように。結局は菜々さんもあなたより朱里さんを選んだんですね。」
田中は、息を荒くしながら下を見たままだった。
「まあこの真相を警察などに言うつもりはありません。これからもあなたの生活は今まで通り保たれるでしょう。」
「なぜ、言わないんだ…。」
「田部先生の意志を貫いてるんです。黙ってあげるんだから、うるさくしないでください。」
私は田中の顔を睨みつけた。
一気に怒りが込み上げた。
「どうしても、佐々木朱里の遺体が欲しかったんだ。とても珍しい血液型で実験がもっと進むと思った。飲ませた薬は致死率がとても高い。眠るように死なせてきれいな状態で回収したかった。」
「お前…」
郁弥は手を出そうとした。
それを私は止めた。
「あなたの実験がどうなろうと私達にはどうでもいい。でも、信頼されていた患者を殺したあなたは、精神科医なんて名乗る資格どこにもない。」
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