その行為は秘匿
「お前が、あんなに感情的になるなんてな。」
帰り道で郁弥が言った。
「普通だよ。腹立ったから。」
田中と田部先生は、高校の同級生らしい。田部先生に鍵を貸してもらったことも田中はすぐ気づいた。
あいつのやりそうなことだと。
親交がかなり深かったのだろうか。
「そういえば、田辺先生への留守電はどうやったんだ?朱里が話せるわけじゃないだろ?」
「いや、田辺先生が朱里の声を間違えるわけない。
朱里は死のうとは思ってたんだ。ただ、思ってたのと早すぎただけ。」

桜田菜々は、難病にかかって亡くなっていた。彼女はれっきとした被害者なので、生きていたとしても探し出していろいろ言うつもりは無かったのだが、一度会って話をしてみたかった。
田辺先生と菜々と写ったあの写真、裏には見覚えのある字体で、
『私の好きだった人は、大嫌いな人になりました。』と書かれていた。
「田辺先生は、田中のことも気づいてたんだよ。鍵は当時菜々から預かったの。いつか役に立つからって。でも先生は詳しいところまで知ろうとはしなかった。すぐには、解決しちゃいけないって、そう思ったから。」
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