BLADE BEAST
イマイチテンションが低い私に、晄は励ましてくるように甘い微笑みを私へと向けてきた。
それでも、付き合っていた頃とは距離感が違っていることだけは確かで。私に触れることはせず、近すぎも遠すぎもしない。
…数歩先に晄は立っていた。
「…元気、出してよ」
「…元気、だよ。別に」
「嘘。流石にその嘘は俺にでも分かるよ?」
「……」
「…莉央」
「…」
「またさ…、旅行しようよ」
「…」
「俺、車も運転するし」
「…」
「パーキングエリア寄りまくって、いっぱい買い食いしてさ?」
「…」
「写真も、撮ろうよ。いっぱい思い出だって作ろうよ」
その言葉に、私はうまく返事が出来ないまま黙って耳に入れていた。
そうだ。もう、どうしようもないこと。
現に何処にも眞紘はいない。
行っちゃった。
…行っちゃったんだよ。
アイツは私を晄に任せて…、勝手に消えていってしまった。私はなにをすることも出来ない。連絡手段だって、思えば何も持ってない。
遠いところに、行っちゃって……だから、こうやって優しく笑いかけてくる晄が目の前にいる。
晄もそれを受け入れた。
守るとか、守られるとか私にとってはそんなのどうだっていいのに、彼らの間には何かが通っているらしく、晄はすっかりマトモな男に変わっていた。