BLADE BEAST
It is only a beginning.

その男、玖珂 眞紘

────終業式間際の七月中旬。

その時期といえば、学生なら誰しもが悩まされるだろう苦行極まりないテスト期間が頭を過るもの。

夏休みという"楽園"の目の前に立ちふさがるそれは、正しく"大きな壁"。

けれどろくにテスト勉強なんてするわけもない私は、呑気に朝陽を浴び、"学校だ……"と怠く思いながらも寝ぼけ眼でベッドから起き上がった。




「うわ、やばっ……」




勿論、晄の家ではなく、今日は自分の部屋。

しかも今日に限ってはだいぶギリギリな時間まで眠りこけていたようだ。



バタバタと忙しなく用意する私は、いつもヘアセットには特に時間をかけることはなかったんだけど、今日ばかりは普段よりももっと手短にすました。



ああ…もっと寝ていたいと思っても、自分で起きる他ないのはこの家に"だーれも"いないから。

いや。特にシリアス展開があるほどに深刻なわけじゃない。

テーブルを見れば今日もご丁寧に一万円札だけが乗っていて、これで一日過ごせって言いたいんだろうか、"あの人達は"。



はぁ……、と息を吐く私はこの馬鹿静かなリビングを見回して、とある一個の写真立てに視線を寄せた。

笑顔。私、母、父。

それを見た瞬間にパタン、と伏せてしまったのは、もうそんな原型など残っていないのだから見たくもないからで。
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