恋とカクテル
#8 ロブロイ
 アンチョビポテトをつまみながら、彼女が飲んでいるカクテルは「ロブロイ」。曰く、スコッチウィスキーベースのカクテルで、度数は高いけれどベルモットの甘い風味で飲みやすいのだとか。

 ちなみに僕はあまりお酒に強くないので、スコッチもベルモットも名前を聞いたことはあれど、どんな味がするのかわからない。 

 今だって最初のビールですでにほろ酔い、二杯目以降飲んでいるこれは、サラトガ・クーラーというノンアルコールカクテルだ。彼女が着信に気づいて席を立ったタイミングで素早く店員さんに声を掛け、見分けのつかないノンアルコールをお願いしたらコレが出てきた。

 見た目は完全にモスコミュール。辛口のジンジャーエールにライムの爽やかな酸味が加わることで、気分で酔えそうな味わいになる。いやはやなんともありがたい。

 彼女は僕がお酒に強くないことを知っているし、今更見栄を張ったところでどうしようもないのは百も承知だけれど、今日ばかりは格好をつけたい。かと言って無理して飲んで潰れることも絶対に避けたい。

 何せ僕は今日、彼女に告白すると決めているから。

 彼女は会社の同期で、入社して以来切磋琢磨する仲間として、業績を競うライバルとして、共に歩み、励まし合って過ごしてきた。

 仕事ができて明るく情に厚い彼女にいつの間にか片想いをしてはや数年、幾度か巡ってきた告白のチャンスをことごとく己の不甲斐なさで潰してきたツケがとうとう回ってきてしまったのか、来月僕は別の部署に異動することになった。

 部署が変わってもフロアが違うくらいならよかったけれど、異動先の部署があるのは今とは別のビル、こうなるとなかなか会う機会も減ってしまう。

 そうやって、もうこれが最後の機会だと思え、逃せば次はないとなんとか自分を奮い立たせたおかげで、今日「異動前のサシ飲み」に誘うことに成功したわけだが。

 ふと僕は考えた。個室のある雰囲気の良い店に来たのは良いが、告白とはどうやってするものだったか。
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