恋とカクテル
 いつの時代も男らしくビシッとストレートに且つスマートに「好きです付き合ってください」が良い、なんてどこかのサイトで見た気もするけれど、じゃあその告白をスマートに切り出すタイミングがいつなのか、それを教えてもらいたい。

 僕があれこれ考えているうちに、飼い猫の話を楽しそうにしていた彼女が「写真見る?」と言って視線を上げたので、ばっちり目が合った。

 僕は少し色素の薄い彼女の瞳に吸い寄せられるように少しも目が離せなくなり、二人の間にしばしの沈黙が訪れる。

「なーに、じっと見て」
「あ、いや」

 今ではないか?そう思うのに、僕は全く愛の言葉を紡げない。そのかわり、「写真、見たい。猫の。あとさっきから美味しそうに飲んでるそれが実はずっと気になってて」などと後半意味もなく彼女のロブロイを指さした。

「気になってたならはやく言ってくれれば良いのに。舐めてみる?」

 彼女は僕のカタコトのような発音になった言葉に吹き出しながら、笑ってそれを差し出してきた。

 なぜそんなことを言ってしまったのだろう、軽く後悔はしたものの、「いや結構」などと言える訳もなく、僕は赤褐色透明のロブロイをクイッとひと口、文字通り舐める程度口に含み、むせた。

「やだ、もう。大丈夫?」

 僕の様子を可笑しそうに彼女が笑う。

「大丈夫、なわけがない。甘味とは?アルコールそのものって感じだったんだけど」
「ごめんごめん、なかなか強かったよね」

 なかなかどころか大分強烈な刺激を受けて、告白の言葉も飛んでいった僕に、彼女が言う。

「でもこんなに強いお酒なのに、とってもロマンチックな言葉が添えられてるのよ、このカクテル」
「へえ、どんな?」

 声のトーンがいつもの彼女と違っていて、僕はドキッと胸が跳ねたのを感じた。

 おもむろに、彼女は僕の手を握る。

「あなたの心を奪いたい」
 彼女はまっすぐ僕を見つめてくる。

 なるほど、これがスマートな大人の告白ってやつか。

「もうずっと前から君に心を奪われてるよ」
「知ってたわ」

 僕はどこまで行っても彼女に完敗らしい。
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