恋とカクテル
「内定辞退したって。それで……卒業したら向こうでできた彼氏と結婚するって……お腹に……」

 そこまで言って、青木は泣き崩れた。

 マジかよ真由ちゃんそりゃないぜ。
 私は泣き崩れる青木にかける言葉が見つからなくて、とりあえず家にあげて、青木が落ち着くまでひたすら背中をさすってあげた。

 青木が少し落ち着いた頃、部屋で小さくうずくまるこの大男を一人部屋に残し、私はシャワーを浴びて軽く化粧をして、コンビニにお酒とケーキを買いに行った。ついでにピザも注文する。

 あいにく、失恋した友達を慰めるための言葉なんて持っていないし、まして遠恋中の彼女に会いに行ったら他の男の子供を身籠りましたなんて、あまりにも惨くてどう考えても何もできそうになかった。

 だから飲んで食べて思う存分泣きたまえ、と思ったのだ。

 大量のお酒とつまみ、それにケーキを買って帰ってきた私に青木は面食らっていた。最初こそそんなに食欲ねえよ、と言っていたけれど、お酒が進むとよく食べた。それでまた酔いが回るとよく泣いた。

 青木の話を聞いているうちに私まで泣けてきて、その年のクリスマスは明け方まで二人でたくさん泣いた。

 結論から言うと、私は青木の泣き顔に恋をしてしまったのだ。真剣に人を好きになって、裏切られて傷つきながらも相手を悪く思えないその優しい男の泣く姿に、惚れてしまった。

 あれ以来青木は、恋をする事をやめてしまったというのに。

 青木の心の傷が癒えるまで待とう、また恋をしたくなった時にそばにいられる相手であろう、そう思っているうちに、友人期間が長くなりすぎて、実は私あなたが好きですなどと言えなくなってしまって早十年、今や立派に親友ポジション。

 青木は相変わらず恋愛に興味がないと言うし、私は相変わらず青木が好きだ。

 それが私たちであったはずなのに。

「つまり、結婚はまだかっていう親からの圧に、ついに見合い話が持ち上がってしまい参っていると」
「そういうことです」

 私はデプス・ボムを口に付けたまま、ジトッと青木を見る。物騒な名前の割にグレナデンシロップがしっかり甘くて、レモンの酸味が爽やかに口の中に広がる。多分ちょっと甘めに作ってあるんだろうなあっと思いながら、コクンとひと口。フルーティーな味わいとは対照的に、アルコールの刺激が喉を刺す。

「なんで私?」
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