恋とカクテル
 萌は今日も綺麗だった。ひとつに結んだ髪型も、萌のフェイスラインを引き立てていてよく似合う。リップがやや落ち着いた色をしているせいか、今日の方が大人っぽく見える。

「やっぱり本田さん、綺麗になったね」
「ふふ、ありがとう」

 綺麗、可愛いなんて、言われ慣れているに違いない。彼女は照れた素振りも特になく、ただその言葉を喜んでいた。先週の飲み会で彼氏はいないといっていたけれど、今更俺が口説いたところで振り向いてもらうのは無理かもしれない、序盤から俺は自信をなくした。先週は隣同士でよく見ることは叶わなかったが、正面に座る萌は、カクテルを飲む仕草も、食事をする所作も、ゆったりとしなやかで、色っぽかった。

 気づけば俺はじっくりと、そんな彼女を眺めていた。それこそ萌に「中澤くん、見過ぎ」と嗜められるほどに。言われてハッとして慌てて「ごめん」と視線を逸らしたけれど、萌が照れくさそうに笑っていたため、俺はほっと胸を撫で下ろす。

「ねえ、中澤くん」

 萌がチラリと、こちらを見る。

「この間はあんまり話せなかったから、今日はゆっくり、中澤くんの話が聞きたいな。昔の思い出もいいけれど、今の中澤くんの話」

 萌の好奇心に潤んだ瞳が俺を捉える。本当に、いい感じにオトナの女になった同級生に、俺は心をくすぐられた。

「俺の話でよければいくらでも。それで本田さんのことも知りたいな」
「萌」
「ん?」
「萌って呼んで、ほしいかなあ」
「……萌、ちゃん、さん?」
「やだ、ふふ。なんでよ〜」

 彼女は先ほど見つめていた時以上に照れて耳を赤くしていた。俺もこの歳になって、女性を下の名前で呼ぶことがこんなに恥ずかしいとは思わなかった。

 二人して赤面して、それこそ中学生かよ、と思いつつ俺はビールを飲み干した。萌も、オレンジなのかパイナップルなのかはわからないがトロピカルカラーのアンジェロを、美味しそうに口に含む。そうして、また視線が交わって、どちらともなく笑みが溢れる。

 青春のやり直しか、ただの好奇心か、はたまた全然違う恋の始まりか。いずれにせよ、中学生ではなく三十歳の男である俺は、余裕のある笑みの下で、いかにして萌の興味を自分に縛りつけられるか、高速で考えを巡らせるのであった。
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