恋とカクテル
 会わないための口実作りかあ、と思ったけれど、なんとなく彼には言いづらい。

 だってもしかしたら、彼女は本当に別れようと思っているのかもしれないから。それは私にはチャンスだ。

 彼女となんとか仲直りをしたいと思っている彼には申し訳ないと思いつつ、私はつい、悪いことを考えてしまう。

 彼が振られたら、私が慰めて、彼の心に空いた穴を塞いであげられるのに、と。

「それに最近、フットサルを始めたって聞いてね。スポーツなんて興味なかったのに」
「それは……」

 うっすら新しい男の影が見える。どう思う?と問う彼に、なんと答えたらいいか迷ってしまう。彼だってわかっているはずなのに、私にどんな答えを期待して聞いてきたのか。

 何が彼にとっての正解なのか、悩んで数秒遅れで「グレーかなあ……」と答えた。曖昧で申し訳ないと思いつつ、断定も否定もできない、実際わからないし。

「グレーか、まあそうだよね」

 彼は寂しそうで、でもやっぱり自分の中でも正解は出ていたみたいで、そんなに暗い顔には見えなかった。それから私に顔を向けて、静かに微笑む。

「優香だったら、良かったのかな」
「え?」

 突然名前を呼ばれて、思考が停止する。私だったら良かったとは、つまり、どういうことだろう。

「優香が彼女だったら、こんなふうにはならなかったのかなって。ごめん今の忘れて、俺酔ってるわ」

 頭を冷やしてくると言っで立ち上がった彼の手を、思わず掴んでしまった。良くないって、わかっているのに、せめて彼らが全部ちゃんと終わってからって、思っていたのに。

「私だったら、良かったのに」

 私の言葉と態度は、心よりもずっと素直だった。
< 36 / 55 >

この作品をシェア

pagetop