恋とカクテル
 バーと聞いてカウンター席だけのかしこまった小さな店を想像していたけれど、彼は意外と広くてカジュアルな雰囲気のお店に連れて行ってくれた。

 L字型のソファー席に腰掛けて、二人ともビールで乾杯をする。先ほど対面で座っていた時より距離が近いので、またしても私の心臓は落ち着かなく鼓動を早め、動揺を悟られまいと澄ました顔でビールを飲む。そんな私はあまり可愛げの無い女のだろう。とはいえ、果たしてアラフォーに可愛げは必要なのか、気になるところだ。内心動揺しながらポーカーフェイスを保っている私とは対象に、彼は相変わらずにこやかに話を振ってくれる。この人はとても聞き上手なんだわ、ますます好感を持ててしまう。

 ビールが空になる手前で、彼が「何かカクテルを頼んでみませんか、僕、ここのバーテンダーさんのカクテルがとても好みなので、是非樹里さんにも味わってみて欲しいです。」と言ったので、私は友美の言葉を思い出した。

「そういえば、もし道重さんとバーに行く機会があれば、ワインクーラーを頼むと良いって友達に言われたのですが、どう言うカクテルなんですかね」

 彼は少し驚いた顔をしたあと、目を細めて私をみた。今までの穏やかな顔よりずっと色気のある男の顔になった気がして、私は呼吸を忘れてしまった。

「樹里さんは、ご友人に僕の話を?」
「あっ、あの、ジムで時々話す人とお友達になりたいなあ、なんて。そう言う話をですね」

 見つめられて、まるでうぶな女の子みたいに焦ってしまい、かなり恥ずかしくなった。口を滑らせた自分を呪っていると、彼がくつくつと笑う。

「なるほど、友達になりたいと思ってくれていたなんて嬉しいですね。頼んでみましょうか、ワインクーラー。ワインはロゼでも赤でもなんでもいいですが、好みはありますか?」
「あ、はい。じゃあ赤で」

 私の返事を受けて、彼が満足そうに笑った。何故そんな風に笑うのかはわからないけれど、その笑顔も良いと思った。私はすっかりやられてしまって、ちょろすぎる自分を嗜めるように、目を瞑って残りわずかなビールを飲み干した。

 目の前に置かれたワインクーラーは、オレンジがかった赤色で、アルコール感も強くなく、とても飲みやすかった。これを飲んだところで、一体彼の何がわかるのか、やはり友美が適当に言っただけなのだなと思っていると、彼がじっとこちらを見つめでいることに気がついた。
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