仮面夫婦だったはずですが妊娠したら、カタブツ社長は新妻への愛を抑えきれない。
* * *
「……ただいま」
夕食を作っていれば、リビングのドアが開く音が聞こえて私はサッと手を洗った。
「お帰りなさい……蓮司さん」
時刻は19時半。帰ってきたのは私の旦那様、蓮司(れんじ)さんだ。
「あぁ」
私の名前は稲葉咲良(いなば さくら)。高校卒業してすぐ、大手貿易会社INABA・社長の蓮司さんと結婚し夫婦になった。
蓮司さんはいつも無表情で、何を考えているのか分からない。それが少し、怖い。
「お風呂沸いてますよ、入りますか?」
聞いても返事は返ってこないことは分かっているはずなのに、寂しいと感じている自分いることに苦笑いする。
蓮司さんからジャケットを受け取り、リビング内のクローゼットのハンガーにかけた。
「ご飯用意しますね」
クローゼットから離れ、キッチンを向かおうと彼に背を向ける。
「咲良」
え……? 蓮司さんが私の名前呼んだ?
「……何をびっくりしてるんだ」