仮面夫婦だったはずですが妊娠したら、カタブツ社長は新妻への愛を抑えきれない。
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「咲良! お帰り、蓮司さんもようこそ」
インターフォンを鳴らすと出てきたのはお兄ちゃんのよっくんだった。
「母さん待ってるよ、父さんは出かけていてもう少しで帰ってくるから」
「うん」
よっくんは、リビングまでの少しの時間で「大丈夫? 元気?」と以前のような過保護っぷりを発揮させている。
「母さん、咲良が帰ってきたよ。蓮司さんも来てくださって」
「蓮司さんいらっしゃい、咲良も」
お母さんは私に向けたことのないような笑顔を見せる。それは私のためじゃなくて蓮司さんのため。
蓮司さんはよっくんと席を立ち何やら経営学みたいなものを話し込んでいる。
「まぁ、咲良。赤ちゃんできたのね! 良かったわぁ」
「えぇ、私もとても嬉しいです」
「やっとあなたも女としての責務を果たせたのね!」
小さな頃からお母さんに言われていたことだ。
『女は夫の一歩後ろを歩きなさい、咲良はニコニコ笑っていていればいいのよ。そして、丈夫な男児を産むのです。代々受け継いだものを絶やしてはいけないのです』
「ちゃんと男児を産むのですよ! 健康な跡取り息子を!」
「お義母さま、お言葉ですが俺は咲良に似た女の子がいいなぁと思っています」
蓮司さんはどこから話を聞いていたのかバッサリと言い、私の隣に座った。