溺愛王子は地味子ちゃんを甘く誘惑する。
「乃愛」
ドア越しに呼び掛けると、お湯が激しく波打った音がした。
……驚いたんだよな。
「ごめん、びっくりさせて」
「えっ、あのっ……」
戸惑う乃愛の声。
「このまま、話聞いてくれるか?」
くもりガラスの向こうに耳を澄ませば。
「うん……」
乃愛の声が小さく響いた。
逃げられないここでなら、俺の想いを聞いてもらえると思ったんだ。
勝手に俺が話すんだ。耳だけ傾けてくれればいい。
俺は、誰にも言ったことのなかった真帆との関係について話した。
こんなこと乃愛は知りたくもないかもしれないが、俺を避けている原因のひとつに真帆が絡んでいることは事実だろうから。
時折ちゃぷんと跳ねるお湯の音が、乃愛からの相槌だと思い、俺は話しを進めていく。