極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です



 突然。
 保健室の戸が開く音がした。

 その音に反応するように私と芦達先生は戸の方を見た、ら……。


 ……‼

 驚き過ぎて。
 声が出なかった。


「飛鷹先生」


 保健室の戸を開けたのは。
 隼理くんだった。


 芦達先生も少し驚いた表情(かお)をしている。


 隼理くんは戸を開けたまま。
 微動だにせず、私と芦達先生の方を見ている。
 ただ表情は、かなり焦っているように見える。


「どうしたんですか、飛鷹先生」


 まだ驚きが残ったまま、そう訊いた、芦達先生。


「……神城が芦達先生に連れられて保健室の中に入っていったって
 生徒たちが廊下で話していたから……」


 焦りが残ったまま、そう返答した隼理くんは、少しだけ息が切れているように聞こえた。

 ……もしかして……。
 急いで来てくれた……?


「……それで……息が切れるくらい急いで駆けつけたんですか。
 ……神城さんのことが心配で」


 ……っ‼

 今の。
 芦達先生の言葉。
 あまりにも意味深に聞こえた。

 隼理くんも芦達先生にそう言われて。
 我を忘れかけている自分にハッと気付いたのか。
 少し困ったような表情(かお)をしている。


 私と隼理くんと芦達先生がいる保健室の中は。
 何とも言えない、微妙な空気に包まれた。

 無言……。
 私も隼理くんも芦達先生も。
 誰も何も言葉を発さない。

 重苦しい……というのか。
 どういうふうに表現すればいいのか。
 とにかく。
 この空間にいることは、精神的に厳しい。

 なので。
 どうか、早くこの状況から抜け出せますように……っ。


「神城さん、足を挫いたみたいで。
 今、応急処置で湿布を貼ったんです」


 そう願っていると。
 再び芦達先生が口を開いた。


 やっと、あの何とも言えない空気から抜け出せた。

 そう思ったけれど。

 そんな空気を感じていたのは私と隼理くんだけで。
 芦達先生の話し方を見ていると。
 芦達先生は初めから何も感じていなかった、ようにも見える。


「そうでしたか。
 それで足の具合は……?」


 あの沈黙の間に、だいぶ心を落ち着かせたのか。
 隼理くんは冷静に芦達先生と話をしている。


「今は湿布を貼っただけなので、
 病院に行って、ちゃんと診てもらった方がいいですね」


「そうなんですね。
 芦達先生、ありがとうございました」


「いえ、そんなこと気になさらないでください。
 あっ、そうだ。僕、これから会議があるんです」


 芦達先生、これから会議があるのに。
 私を保健室まで連れて来てくれて、湿布まで……。

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