また逢う日まで、さよならは言わないで。
「ついたよ」
そういって、立花副店長が車を止めたのは、『センニチコウ』というカフェだった。
立花副店長と私の働く『ミヤコワスレ』とはまた違ったお洒落なカフェだった。
『ミヤコワスレ』は外観から内装、店員の服装まで大正ロマンを感じさせるような、和と洋が入り混じった雰囲気となっている。
それに対し、『センニチコウ』はまるでギリシャを思い浮かべてしまうような、真白な外壁に、石畳という外装だった。
数人が、屋外のベランダでおいしそうな料理を食べていた。
もうお昼時だ。
私が車を降りようとした時だった。
「ちょっと待って」
「どうしました?副店長」
「それ」
「え?」
「今、職場にいるわけじゃないから、違う呼び方できる?」
「違う呼び方?」
私は戸惑い、浅く座っていたシートに再び深く座りなおした。
「……たち……ばなさん?」
私がそう呼ぶと、立花副店長、いや、立花さんは満足そうに笑い、よくできましたとでもいうように、再び私の頭を優しくなでる。
それで赤面をしてしまう私は単純だ。
立花さんは、素早く車を出て、私が車の扉を開ける前に、車の扉を開けてくれた。
そして、私が車の天井に頭をぶつけないように、さりげなく車の天井に手を添えてくれる。
どこまでこの人は完璧なのだろうか。
そんな完璧な人と私は今デートをしている。
一生分の運をこの日で使い切っているのではないかと、少し不安になってしまう。
「さ、いこうか」
しかし、一生分の運を使い果たそうが、立花さんの笑顔を見れば、そんなのどうでもよくなってしまう。
本当に、イケメンとは罪な生き物だと思う。
私は、少し前を歩く立花さんの背中へついて行った。