また逢う日まで、さよならは言わないで。
夏
6月はジューンブライドの月である。
日本は梅雨真っただ中だというのに、ローマ神話の女神さまが守護してくれるとかで、この月に式を挙げたがる女性は多い。
うちの姉もその一人だったりした。
「24で結婚なんて、今時早いなんて言われなかった?」
きれいなウエディングドレスに身を包んだお姉ちゃんは、鏡の前にたち、鏡に映った自分を見て動かない。
「言われたよ。けどいいの、私が結婚するって決めたんだもん、早いも遅いも、何を基準に周りはいってんだか。私にとって結婚は今だったの」
姉は、昔っからこういう性格だ。
一度決めたら周りが何を言おうが、動じない。
これから、私のお兄さんになる、渉さんはさぞかし苦労されることだろう。
「お姉ちゃんらしいね」
「來花、どうなのよ」
「え?」
お姉ちゃんは、後ろの椅子に、座ってみていた私を、見るため振り返る。
「直哉と、まだ付き合ってないの?」
「え、付き合うも何も、私たち、そういう関係じゃないけど」
「毎日うちきてご飯食べていくのに?」
「うん」
「來花の部屋で毎日2人っきりになるのに?」
「うん」
「……あなたたち、本当に何もないの?」
「うん」
お姉ちゃんは、頭を抱え、深くため息をこぼした。
「……今の若い子たちって、不思議な男女関係があるのね」
「私たちは特殊だと思うけどね」
「それを受け入れている、うちの母親も、特殊だということね」
「そうだね」
丁度そこへ、扉をノックする音が聞こえる。
お姉ちゃんは、すかさず「どうぞ」というと、扉が開き、そこには直哉が立っていた。
いつもの私の部屋にいるダル着の直哉じゃなくて、スーツに身を包んだ直哉が立っていた。
髪の毛もワックスで固め、いつもの焼きそばのような頭ではない。
「さすが、素材がいいだけあって、ちゃんとした格好をすればそこら辺のモデル並みだわ」
お姉ちゃんは、直哉を見るなり、1人拍手をしていた。
直哉の背後から、渉さんがお姉ちゃんを手招きして呼ぶ。
きっと、最後の打ち合わせなどでもするのだろう。
「じゃ、來花。会場でね」
お姉ちゃんはそういって、急ぎ足で渉さんのもとへと向かう。