また逢う日まで、さよならは言わないで。
きらびやかな世界から解き放たれ、私はお母さんの運転する車の中に直哉といた。
「あー、結婚したい」
「……相手見つけるほうが先よ」
お姉ちゃんの、結婚式のあとの余韻に浸る私を、お母さんは現実世界に引き戻しにかかる。
直哉が隣で、意地の悪そうに笑っているのが見える。
さっきまで、スーツに身を包んでいた直哉は、堅苦しいからと言って、式が終わった瞬間にスーツを脱ぎ、いつもの直哉に戻っていた。
こうなってしまえば、変に緊張しないし、こっちのものである。
「笑ってんの、ばれてんだから、直哉」
「別に笑ってないし」
「笑ってた!」
「……はいはい、そうですね」
直哉は、めんどうくさそうに、窓の外を見る。
「ったく……。本当の兄弟のようね、あなたたち。そういうところ、花蓮とそっくりだわ」
お母さんはため息をつくように、そういう。
「お姉ちゃんと一緒は嫌だ」
「姉妹だもの。似ていてもおかしくないわ」
「えー。じゃあ、渉さんみたいな人と出会えるかな」
「そうそういないわ、あんないい人」
「……そうだよね」
「花蓮は幸せ者ね」
お母さんが少し微笑むのが見えた。
母親として、娘が巣立って行くというのは、どんな気持ちなのだろう。
「お母さん」
「ん?」
「さみしい?」
「……少しね」
「そっか……」
「でも、直哉君もいるし、きっと、すぐになれるわ」
そういって、お母さんは、バックミラーから、直哉に目線を合わせに行くのがわかる。
直哉は、それに応えるかのように、お母さんと目を合わせていた。
それを見て、なんだか、自然と笑みがこぼれた私。
「直哉、今日ご飯うちで食べてくでしょ?」
さっき、言い合いしていたことなど私はもう忘れていた。
「ああ」
「お母さん。今日は、少し豪華にしようよ」
私がそういうと、お母さんは嬉しそうに笑う。
「じゃあ、このまま一緒にスーパーに行きましょ」
車は、夕焼けに照らされた道を走る抜ける。
今日は一週間ぶりの晴れらしい。
6月という梅雨の時期なのに、お姉ちゃんはやっぱり、持ってる人のようだ。
お姉ちゃんは、今頃二次会で、友人たちとそして、最愛の渉さんと仲良くやっているのだろう。
いつかそんな日が来たらいい。
それまではこうして、大切な人たちと毎日、笑っていられたらいい。
そう思えた一日だった。