また逢う日まで、さよならは言わないで。
周りの緑の色は深みを増し、みな夏の暑さに備えだす。
今日はそんな初夏の晴れた日だった。
太陽がまぶしくて、自然と気分も高揚する。
私はいつも着ないような白ワンピースに身を包み、いつもはしないような女の子らしいメイクをして、直哉の半歩後ろを歩きていた。
直哉は私の歩くペースに、何気なく合わせてくれる。
いつものことなのに、今日はこの天気のためか、直哉と久々にこれから出かけるからなのか、うれしくて、自然と頬が上がった。
私は油断していた。
直哉の容姿は異性を振り向かせるほどの、ものだったということを、一緒にいすぎてすっかり忘れていた。
場所は大型ショッピングモール。
女子のたまり場といっていいだろう。
そんなところへ、容姿の整った異性と2人で買い物へ行ってみたとしよう。
店員さんにかけられる言葉は、大体決まっていた。
「彼氏さん、イケメンですね」
服を選んでいた時に、隣にいた直哉を見て、店員さんは私にそう言ってくる。
いちいち否定するのもめんどくさく、私は愛想笑いをして時をすごす。
直哉は相変わらず、そんなことを言われても、顔色一つ変えず、黙っている。
それどころか、直哉は一緒に服を選んでくれるようで、私が好きそうな服があるところへ私を連れて行ってくれる。
そんなことをしているから、なおさら、付き合っているように見えるのだろう。
感じる周りの女子からの視線は少し痛かったが、直哉がちゃんと私の買い物に付き合ってくれることのほうが、嬉しかった。
「何、笑ってるんだよ」
買いたいものが買え、ショッピングモール内のたまたま通りがかった少しお洒落な店で、私たちは休憩しようとふらっと入った。
安価なチェーン店のカフェなだけあって、客層は私が働いているカフェよりも比較的若い。そのためか、割と話し声も大きく、回転率も高い為、長時間休憩できそうな雰囲気ではなかった。
私たちは、店員さんに案内され、席に着いた。
お互い注文したものが届いたところで、直哉は不思議そうにそう聞いてきた。
「別に。特に理由はないけど」
「嘘つけ」
「……聞きたい?」
「やっぱり、理由あるのかよ」
「あるよ」
「なんだよ」
直哉は一口ブラックコーヒーを口に含んだ。
「最近直哉、変わったよね」
私もアイスティーを口に含み、口の中を潤す。
「そうか?」
「うん」
「例えば?」
「うーん。私の話ちゃんと聞いてくれたり、私の買い物ちゃんと付き合ってくれたり、少し前より優しくなった」
「……そうか」
「自覚ないの?」
「ない」
直哉は、ブラックコーヒーをいつの間にかすべて飲み干していた。
「まあ、私にとっては嬉しい変化だったの」
「だから笑ってたのか?」
「まあ。だって、こんな女の子だらけのカフェとか、無駄に女の子の視線集めるから、直哉嫌いでしょ?なのに文句ひとつ言わずについてきたじゃん。それがなんかね、嬉しかったの」
私も、アイスティーをすべて飲み干す。
「ま、お前と違ってモテるからな」
直哉は、私のことを見て、口角を少し上げた。
私もそれにつられて笑ってしまう。
「そういうところは、むかつく」
「……もう、そろそろ出ないと間に合わねえぞ」
「あ、いけない。もうこんな時間だ」
私たちは、席を立ち、会計を済ませ、店を出た。