また逢う日まで、さよならは言わないで。
あたりは夕暮れ。
夏の夕暮れは遅い。
もうすでに時刻は18時を回っていた。
そして、ここから暗くなるのはまた早い。
私たちは電車に乗り込む。
下り路線の電車はこの時間帯混む。
座れるわけもなく、私たちは、吊革につかまり、電車に揺られる。
窓の外には、民家の明かりが暖かく光っていた。
夕飯の準備でもしているのだろうか。きっとそこには、またたわいもない一人ひとりのストーリーがあるのだろう。
ふと、無意識に私は左上にいた直哉の顔を見ていた。
直哉は相変わらず無表情だ。
「何?」
私の視線に気づき、直哉は目線だけ私のほうへ向ける。
「別に、何もない」
「そう」
「うん」
私が目線を、窓の外へ戻そうとした時だった。
「あのさ」
直哉が私に話しかけてくる。
「ん?」
私は目線を、再び直哉のほうへ向けた。
「ホタルって、成虫になってから、何日で死ぬんだっけ」
「2週間じゃなかったっけ」
「……そっか」
「何、急に」
「いや、別に。特に何もない」
直哉は私から視線をそらし、窓の外に目をやった。
どこかで私は直哉のこの表情を見たことがある気がした。
だけど、思い出せなくて。その間に、電車は私たちの目的地に到着した。