また逢う日まで、さよならは言わないで。



この町に、初めてきたのは、中学生の時だった。



当時、私は反抗期真っただ中。



何に対してもイライラして物事が思うようにいかず、そんな自分に腹が立ってまたイライラして、お母さんに八つ当たりして、よく家を飛びだしていた。



直哉は私が家を飛び出していくところをきっと、ベランダから見ていたのだろう。


なぜか、家出をして、一番先に私を迎えに来るのはお母さんではなく、お姉ちゃんでもなく直哉だった。


この町は、何回目かの家出の時に出会った町。直哉も迎えに来れないように、電車に乗って遠くに行ってやろうと思って降りたのが、この場所だった。



「ああ、いるじゃん」



駅から歩いて10分。


少し坂を登ったところにその景色はあった。



静かに水が流れる音。


風が葉を揺らし、こすれる音。


それだけが聞こえるこの世界。真っ暗な闇の中に、無数の儚い光が漂う。



私たちが立っている車がやっと一台通れるくらいの、狭く赤い橋の下には、大きな川が流れる。


その川の周りに草木が無道さに茂っている。


そんな人の手入れが行き届いていない草木があるおかげで、ホタルはこうして、毎年この時期になると無事成虫となり、このような幻想的な世界を作り出す。
 


光っているのはオスだけで、メスへの求愛行動として、自分の存在を光で表す。



たった二週間の儚い恋。



「一生に一度の恋か……」



ため息まじりに私はそういって、橋へ両手をついた。



直哉は、私の隣で橋に寄り掛かった。



「何が?」


「ホタルだよ」


「ああ……」



直哉は、そういう話には興味がないのか、暗闇ながらも視線を下に落とすのがわかった。



「直哉はいないの?」


「何が?」


「好きな人」



直哉から、好きな人がいるなんて話を、これまで私は一度も聞いたことがない。


勝手にゲームが恋人だと思っていた。


今も思っている。



しかし、直哉ももう私と同じ高校3年生。


普通の高校3年生であるなら、好きな子、気になる子1人や2人いないとおかしい。



「いない」



だけど、返ってきた答えは、予想していた答えだった。


期待を裏切らない男だ。



「……だよね」



苦笑しながらも、私は再びホタルのほうへ目線を戻した。



儚い光がふわふわと揺れる。


不安定で、今にも落ちてしまいそうで。


まるでそれは私のようで。
 



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