また逢う日まで、さよならは言わないで。



帰りの電車、直哉は疲れて私の右横で座って眠っていた。



長いまつ毛に、筋の通った鼻。


それに加えて高身長ときたもんだ。


外見に関しては誇らしい幼馴染ではある。


何度、高校の友達に紹介してと頼まれたか。



しかし直哉はそういうことに関して一切興味はない。


ゲームが第一優先且、性格に難ありのため、私は友人を一度も直哉に紹介したことはない。



「寝ている分にはいいんだよな」



直哉のそのきれいな寝顔を見ながら、私はそうつぶやいた。



上り電車に乗っていた私たち。


この時間はほぼ乗客はおらず、私たちの乗っていた車両は私たちだけしかおらず、貸し切り状態だった。



私は、スマートフォンを取り出し、ホクトに返信しようと画面を開いた。



昨日の夜来ていたメッセージを私はまだ返していなかった。



【今日はホタルを直哉と見に行ってきたんだ】



私がそうメッセージを送ったとき、直哉のズボンの腰ポケットからスマートフォンが震える音がした。


わずかにズボンの横ポケットから見える直哉のスマートフォンの画面。


それが光っているのがわかる。



ホクトの既読はつかない。



まさかと思った。


だけど確信はない。


私は、続けてメッセージを打ち込んだ。



【ホクトはホタル見たことある?】



再び振動音がする直哉のポケット。



自然と私の右手が、直哉のズボンのポケットにはいっているスマートフォンへと伸びていく。



「……ん、わり、寝てた」



直哉のその声でびくっと体を震わせた私。



伸びていた右手を何もなかったかのように、自分の膝の上に置き、無意識にも拳を強く握っていた。



直哉は、私の様子がおかしいことにすぐに気づいたのだろう。



「なにかあった?」



そう私に尋ねてくる直哉。



動揺していることがすぐにばれてしまったようだ。



この世の中で一番私が嘘をつきたくない人物は直哉だ。


なぜなら、直哉の前で嘘をつく私はまるで、裸の王様状態になってしまうのだから。



頭ではそうわかっていても、私の口は勝手に動き出していた。



「……少し体調が悪くて」



直哉は、少し眉間にしわを寄せながらもゆっくりと、私のおでこに手を乗せてくる。



私の言っていることを疑っているのだろうか。



そして、自分のおでこの温度と比べている。



「……少し熱い」



きっと、これは偶然で、神様が私に味方してくれたのだろう。


そうとしか思えない、そういわれてみれば、頭が少しばかりぼーっとする気がする。



「季節の変わり目だから、風邪ひいたのかもな」


「……うん、そうかも」



そこで、電車は私たちが下りる予定の駅に到着する。


直哉は、私が買った荷物を持ち、私の前を歩く。


私は最低限の荷物をもって、直哉の背中を追う。



そうやって、急に紳士的になる彼。


少し戸惑う私。



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