また逢う日まで、さよならは言わないで。



駅から私たちの家はそれほど離れてはいない。


徒歩10分といったところだろうか。


直哉は時々、後ろを見て私の様子を確かめる。


きっと、私が遅れて歩いていないか見てくれているのだろう。



――――彼はホクトのなのだろうか。



歩いている途中、そんな考えが脳裏をかすめる。



私は今一つ確信が持てなかった。


あの時、直哉のスマートフォンの画面をみることができていれば、真実がわかったのだろう。


だけど、直哉が目を覚ましてしまってそれは叶わなかった。



もしかしたら、偶然なのかもしれない。


奇跡のようなタイミングで、直哉のスマートフォンに誰かが私のようにメッセージを送っていたのかもしれない。



そう思いたかった、そうであってほしかった。



嫌な予感がしたんだ。



これ以上踏み込んではいけない。


これ以上、ホクトと直哉の関係を探ってはいけない。


私の勘がそういった。



「……なあ、來花」


「え?」



直哉は急に歩む足を止め、頭上を指さした。



私は、その指のほうを見る。



それは、夏の夜空だった。


雲一つない空に、まばゆいほどの星が頭上に広がる。


きれいに天の川も見える。



もうすぐ七夕が近い。


一年で1日、愛する人と会える日だ。



「1番好きだっていってなかったっけ?」


「何が?」


「物語の中で、七夕の物語が一番好きだって、昔お前言ってたよな」


「よく覚えてるね」


「……たまたまな」


「理想の関係だと思わない?」


「彦星と織姫が?」


「そう。だって1年に一回会えるだけで毎日頑張れるんだよ?本当に好きじゃないとできないよね」


「そうなった過程には二人の怠慢な態度があってこそなんだけどな」


「そこは無視でいいの!」



私がそういって、夜空から直哉の方へ視線を移したとき、直哉は笑って再び歩き出す。


私はその背中を追う。



そんないつものたわいもない話をしていると、あっという間に、家の前についた私たち。


直哉は持っていた買い物袋を私に渡す。



「じゃ、今日は早く寝ろよ」


「うん、ありがと」



直哉は、私が先に家に入れとでもいうように、手首を外側へ2,3回動かす。


私は、それに促されるように、家の中に入る。



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