また逢う日まで、さよならは言わないで。
秋
夏の暑さというものはしぶといもので、夏休みが終わった今もじっとりと私の汗を引き出してくる。
なかなか去ってはくれないこの暑さと、相変わらずの半居候の奴に私は頭を悩ませていた。
「暑いんだけど」
「俺寒い」
「いや、ここ私の部屋。私にこの部屋の温度を決める権限があるんだけど」
「だけど、リモコンは俺が持ってるから、俺が決める権限がある」
バイトから帰ったとき、ぬるい風が部屋に漂っていた。
直哉は相変わらず、定位置でゲームをしている。
普通、男子のほうが代謝いいから、寒いっていうのは私のはずなのに。
私の部屋でずっとゲームしてるから代謝が下がったのだろう。
それに比べて私は、夏休み中ほとんどバイト三昧で動き回っていたから、基礎代謝が上がり、直哉の設定したこの部屋の温度は暑くてたまらない。
少し動いただけで、汗が出てくるこの部屋の温度は、私にはとても居心地が悪い。
私は、すきを見て、直哉の座っているソファーの横においてあったエアコンのリモコンを取り上げた。
直哉は、しまったと今にも言いそうな顔で目の前に立つ私を見あげてくる。
こういう顔を見るのは優越感にひたれて、少し心地がいい。
私は素早く、エアコンのリモコンで部屋尾の温度を28度から25度に下げた。
そして、もう取られぬよう、鍵付きの引き出しに素早く入れ、鍵をかける。
直哉はこれから来る寒波に向けて、私のデスクにかけてあったひざ掛けを素早く取り、くるまった。
私は、持っていた荷物をデスクの上に置き、直哉の隣座った。
直哉は私を気にすることもなく、ゲームを続けている。
私は『talk』を開き、一通り、来ていたメッセージに対して返信していく。
返信する数は1,2件だ。
夏休みが明け、高校の教室はより一層緊張感を増してきた。
以前よりも、教室にいることが酷になった。仲のいい友達も、気を張ってるため、一刻を争うような用事でないかぎりは、私からは話しかけなくなった。
話しかけられるような雰囲気ではなかった。
私のような就職組は、肩身が狭かった。
就職活動は少しずつしていたが、気分が正直乗らなかった。
どうでもいいと言ったら、お母さんに怒られてしまうだろうが、正直どうでもよかった。
自分の将来に対して真剣に考えたことがない。
考えようと思ったこともない。なるようになると思って今日まで生きてきた人間だ。
楽なほうに楽なほうに生きてきたのが私だ。
今さらいばらの道を超えてゆけと言われても、超え方がわからない。
だから進む勇気が出ないんだ。