また逢う日まで、さよならは言わないで。
その日の帰り道だった。昨日、直哉と夜桜を見た公園の前。
【はじめまして】
最近のチャットアプリ『talk』で知らないアカウント名「ホクト」からそんなメッセージが唐突に送られてきた。
私は歩む足を公園の前で止めた。
私の『talk』アカウントは、ケータイ番号と私のメアドを登録しないと自動的に友達登録はされない設定になっている。
新手のアカウント乗っ取りだろうか。
私がその知らないアカウント名の「ホクト」をブロックしようとした時だった。
【ごめん、唐突にメッセージを送って。怖かったよね。】
まるで私の心の中を覗いたかのようなタイミングで、そんなメッセージがホクトから再び送られてきた。
そのため、私はブロックしようとしていた手を止めた。
【あなたは誰なの?】
さっきまでブロックしようと動いてたはずの手は、気づいたらそんなメッセージを送っていた。
すぐに私のメッセージには既読のマークが付けられる。
【俺があなたを一方的に知っていて。だからあなたは俺を知らないはず。話してみたくて、あなたの友達からアカウントを教えてもらって登録したんだ】
……ストーカー?
私のことを一歩的に知っているってそういうことだよね。
私は、身震いしながら、再びブロックしようとした時だった。
いや、まてよ。
ここでブロックしたらストーカーがエスカレートするかもしれない。
「どうしよう……」
私は頭を抱えながら、その場で深くため息を吐く。
「來花?」
頭上から聞こえてきた聞きなれた声。
なんだ、今日も来ていたのか。
私は、ケータイに目を落としていた顔をその声がするほうへ向ける。
「直哉は今日も夜桜見物?」
直哉は、首を縦に動かす。
「好きだね。桜」
私はそういって、スマートフォンをポケットにしまう。
そして、家路につこうとした時だった。
「なんかあった?」
公園を後にしようとする私に、背後から直哉が声をかける。
「……なんで?」
「……なんか、困った顔してスマホ見てたから」
人の感情に直哉は昔から敏感だった。
私は、向かっていた方向とは逆の方向へ足先を向け、直哉の前で足を止める。そして、ポケットに入っていたスマートフォンを取り出し、ホクトとの会話が見える画面を直哉に見せる。
直哉は、表情一つ変えず私のスマートフォンを手に取り、その画面をじっと見ていた。
「……來花のストーカーなんて、物好きなやつもいるもんだな」
「なっ!」
あまりの言われように、なにか言い返そうとしたとき、直哉は私のスマートフォンを投げるように返してきた。
そのため、それどころではなくなる。その間に、直哉は私の前を歩き、公園を去ろうとしていた。
おいて行かれまいと私はその大きな背中を追う。
「適当に相手しとけばいいんじゃね?」
私が直哉に追いついたとき、そう、言葉を落とすように直哉は私に言った。
やはりそうすることしかないのかと、私はため息を小さく吐き、直哉の背中について行った。