また逢う日まで、さよならは言わないで。
ホクトから初めてメッセージが来てから一か月が過ぎた。
これまでの学校生活をこなしながら、アルバイトに精を出す私。
仕事は1か月も働けばだいぶ慣れ、私の毎日は充実していた。
バイト先の立花副店長は、このカフェ一番の人気のようで、立花副店長を見るためだけに足しげく通っているお客さんもいるほどであった。
私の目は節穴ではなかった。
イケメンを見分けられる賢い目をしているようだ。
「あ、お疲れ。浜辺さん今帰るとこ?」
制服から私服に着替え、裏口から店を出ようとしたとき、後ろから立花副店長の声が聞こえた。
私は、扉を出ようと、ドアノブに手をかけていたが、その手を放し、声のするほうをみると、立花副店長は私服姿でそこに立ってる。
どうやら、立花副店長も今日は帰る様子だ。いつもは閉店までいるのに、今日は予定でもあるのだろうか。
「あ、はい。家に帰るところです」
「俺も帰るから、方向途中まで一緒だったよね。一緒に帰ろうか」
そういって、立花副店長は、スマートに私の前の扉を開け、どうぞとでもいうように、扉を開いて私を待つ。
私の部屋でのんきにいつもゲームしているある人に、爪の垢を煎じて飲ませてやりたいと思ったが、そんなことは顔に出さないよう、素早く、裏口を出た。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
五月の冷たい夜風が私の頬をなでなでる。
いつもなら身震いし、寒さで凍えそうになるのだが、立花副店長のその爽やかすぎる笑顔が隣にあれば、冷たい風なんて気にならない。
ゆっくりと副店長は歩きだしたため、私も、その半歩後ろを歩き始めた。
「今日は何か予定でもあるんですか?」
会話をするための、何気ない問いかけだった。
「なんでそう思ったの?」
「いつも閉店までいるのに、今日は早いので」
「ああ、なるほどね。特にはないよ。ただ……」
前を歩いていた立花副店長の足が止まる。
つられて私も足をとめる。
何かあったのかと、私は立花副店長の端正な顔を覗き込もうとした時だった。
「今度の日曜空いてる?」
「え?」
急に爽やか笑顔でそんなことを言ってきた立花副店長。
「もし、空いてたら浜辺さんに付き合ってほしい場所があって」
そんな、笑顔でお願いされては断れないに決まっている。
「もちろん空いてます」
私は少し前のめりになりながら、そう答えた。
すると、立花副店長は目じりにしわを寄せて笑った。
「そう?ありがとう」
そうして、再び歩み始めた立花副店長。
勢いで言ったものの、二人っきりなのか、それとも、もう人をたくさん誘っていて、そのうちの一人なのか。
聞こうにも、切り出すタイミングがわからず、私は一人悶々としながら、立花副店長の後ろを歩いた。