また逢う日まで、さよならは言わないで。
家に帰ると、案の定、直哉は私の部屋のソファーに寝ころび、くつろいでいた。
そして、私を見るなり、「おかえり」なんて言って、すっかりここの住人だ。
私は、重たい鞄をその場に置き。ベッドへだいぶする。
「ねえ、直哉」
「ん?」
直哉はゲームをしながらも、今日は私の話を聞いてくれるようだ。
話を聞きたくなければ、返事は帰ってこないから。
「副店長に、日曜空いてるかって聞かれたの」
「うん」
「どう思う?」
「……どういうこと?」
私は自分で直哉に質問しておきながら、どんな返答を期待していたのかと、枕に顔をうずめた。
その時、ポケットに入れていたスマートフォンが震えた。
この震え方は誰かが私に『talk』でメッセージを送ったのだろう。
私はポケットからスマートフォンを取り出す。
【久しぶり。元気にしてた?】
ホクトからだった。初めてメッセ―ジが来た時以来だ。
私は既読にしたまま放置していた。
【久しぶり。元気にやってたよ】
何も考えず、私はそう、返信を送る。
既読はすぐについた。
【よかった。安心した。困ってることとかあったら僕でよければ相談に乗るからね】
なんという、絶妙なタイミング。
私からすれば、見ず知らずの人に相談に乗ってもらうことは少しありがたかった。
私が今日会ったことを、相談しようとしたとき、手が止まった。
よく考えてみれば、ホクトは私のことを好きなのかもしれない人物。
ということは、ここで立花副店長に話を出してしまえば、立花副店長が次目をつけられてしまう可能性もなくはない。
【大丈夫。何も困ってないよ】
私はそれだけ送った。
今日のことは、明日学校に行ったら友達にでも意見を仰いでみよう。
みんな忙しそうでなければ。
私は、再び大きなため息を吐いたとき、スマートフォンが再度震えた。
【勘違いしないでほしいから言うけど、僕來花さんに恋愛感情なんてないから安心して。変なストーカーとかじゃないから】
何も返事が返ってこないと思っていたホクトから、急にそんなメッセージが送られてきた。
私は少し混乱していた。
私のことを好きじゃない?
じゃあ、なぜ私に突然にこんなメッセージを送ってきたのだろうか。
私は久しく使っていない脳をフル回転させ、ホクトを意図が何なのか考えてみた。
「わかるかってのっ!」
どれだけ考えてもわからず。
私はさっきまで顔をうずめていた枕に八つ当たりをする。
「何?急に大声出して」
この部屋には今は私だけではない。
直哉がいる。
帰ってきたときは直哉に相談しようと思ったけれど、こんなこと相談したところで、恋愛に関して無頓着な彼からまともな回答が得られるわけがない。
「別に」
「ふーん。今いいところだから。急に大声とかやめて。びっくりするから」
あまりにも心無い言葉に腹が立って、私は抱きしめていた枕を彼に思いっきり投げる。
枕は直哉の頭部にあたるも、どうやら彼は今、私のかまっている暇すらないらしく、無反応だ。
そんなところがまた私をイラつかせる。
だがしかし。今はそれどころではないのだ。
直哉になんてイラついている場合いではない。
私は深呼吸をして、今一度冷静になって考えてみる。
ホクトが私にメッセージを送る意図は分からないにしても、彼が私に恋愛感情を抱いていないということだけは確か。
ということは、立花副店長のことを相談しても別に支障はないのではないか。
私は、ベッドのふちに座り直し、メッセージを打った。
今日のあったことをホクトに送ったのだ、案の定すぐにホクトは私のメッセージに既読を付けた。
【不安だろうけど、行ってみてからじゃないと何もわからないよね。友達と遊びに行くと思っていけばいいんじゃないかな?】
まともな返答が返ってきた。
どこかの誰かさんとは大違いだ。
ホクトのメッセージに、私は知らず知らずのうちに相槌を打っていた。
【ありがとう。そうすることにするよ。相談してよかった】
私はそれだけ送って、スマートフォンの画面を閉じた。
そこで丁度一階からお母さんが私たちを呼んでいる。
夕食の準備ができたのだろう。
私たちは、お母さんの問いかけに返事をし、一階へと降りた。