また逢う日まで、さよならは言わないで。
風呂を上がったとき、何やら肺いっぱいに吸い込みたくなるおいしそうなにおいがするのがわかった。
私は、少し急ぎ目で着替え、髪は適当に乾かし、台所へ向かった。
そして私は後悔した。
「お、やっと風呂から上がったな」
風呂から上がって、一番に目が合ったケントさんが笑いながら私にそう言った。
そうだった。
マツタケのにおいで忘れてた。
「來花、あなたを待ってたのよ」
お母さんが突っ立っている私を急かす。
そんなに急かさないで、お母さん。
急いだせいで忘れてたんだ。
夏の終わり。
花火と共に別れを告げた。
もうこうして会わないと思ってた。
3日前はそれどころじゃなかったから。
立花さんは、私に優しく笑いかけているのがわかった。
私はその笑顔に吸い寄せられるかのように、いつもの食卓の席に座る。
立花さんとは斜め向かいの席。
「やっと、揃ったわ。さ、いただきましょ。渉さんに感謝して」
お母さんがそういった後に、いつものように合掌し、お母さんが作った料理にそれぞれ、箸をみんな伸ばす。
「來花」
左隣に座っていた姉ちゃんが、そう小声で言いながら私の肘を突っついてくるのがわかった。
「何?」
私も小声で返す。
「どうなんてんの?」
「何が?」
「イケメンの家系なの?あそこ」
「ああ……」
姉ちゃんの言いたいことは、なんとなく察しがついた。
「びっくりしたわよ。呼び鈴鳴らして、玄関明けて出てきたのが、あの美形3人なんだから。直哉君は見慣れたからいいけど、あの2人……ねえ」
そういって、姉ちゃんは、目を輝かせて、まるで宝石でも見るように、対面居座る立花さんとケントさんを交互に見ていた。
「渉さんに悪いからやめなよ」
「いや、わかってるんだけどさ…。ねえ……」
ねえって、あなた。
私は、姉ちゃんの左隣に座っている渉さんのことをちらりと見たが、渉さんは、姉ちゃんが、この未来から来たイケメン二人に目を輝かせているとは夢にも思っていない様子だ。
現に今、渉さんの対面に座っているケントさんに日本酒をお酌しているのだから。
健気な人だ、渉さん。
私は、小さくため息をついて、もう何も考えないでおこうと思い、今は次いつ食べられるのかわからないマツタケを味わうことに集中した。