また逢う日まで、さよならは言わないで。
「……來花」
姉ちゃんの話がひと段落したと思ったら、次は右隣りに座っていたお母さんがそう小声で言いながら、私の右わき腹を肘で突っついてくるのがわかった。
「何?」
私はさっきと同じように、小声でそう返す。
「直哉君となんかあったの?」
どうやら、お母さんはいつもうるさいくらいに言い争っている私たちが静かなことを心配しているらしい。
直哉は、黙々と、私の対面で高級食材であるマツタケを口に放り込んでいる。
私とお母さんが話して言う会話には興味を全く示していない。
そんな直哉を見ていたら、自分だけ意識しているようでなんだか腹立たしくなってきた。
「別に」
私は不愛想にそうお母さんに返した。
「……なんかあったのね」
しかし、私の母親だ。
娘の考えていることくらいお見通しらしい。
「いい機会だわ」
そう、ポツリと言ったかと思えば、お母さんは急にあたりを見渡した。
「明日は祝日だから、学校も会社も休みだし、今日はパーッと行きましょうか」
そして、そう満面の笑みでそう皆に言う。
「あら、もうマツタケもなくなりそうね。お酒はまだあるみたいだし……」
嫌な予感がした。
「來花。なんかおつまみ適当に買ってきて頂戴。お菓子とかも買ってきていいから。一人だと、帰り大変だろうから、悪いんだけど、直哉君一緒に行ってもらってもいいかしら」
嫌な予感は的中した。どうやらお母さんは無理やりにでも私たちを仲直りさせたいらしい。
しかも、直哉は私の母親のお願いには絶対に逆らわないのを知っているから。
こういうところ、お姉ちゃんとやり方が似ている。
いや、お姉ちゃんが似たというほうが正しいか。
直哉は、一瞬私のほうをちらりと見てから、ゆっくりとその席から立ち上がった。
そして、玄関の方へと歩いていく。
「ほら、あんたも行きなさい。外は寒いだろうから、なんか上着でも羽織ってから行きなさいよ」
直哉が立ち上がったのを見て、お母さんは私のことを隣からそう言って急かす。
「わかったわかった、行くってば。そんな急かさないでよ」
私はもういわれるがまま、食席を立ち、直哉の背中を追いかけるようにして玄関へと向かった。
リビングの扉を開け、玄関に向かうと、直哉は靴を履いているところだった。
いつもなら、「ちょっと待ってよ」なっていって、そしたらきっと「もたもたしてるとおいて行くから」なんて意地悪なことを言われて。
それでまた私が言い返して……。
そんな日常が三日前には普通にできていたのに。
「何、突っ立ってんの?」
「……え」
直哉が、こちらを向いて、少し首を傾げている。
普通に直哉が私に話しかけてきた。
「あ、ごめん」
私は、急いで靴を履く。
私が靴を履けたのを確認すると、直哉は家の玄関の扉を開けた。
少しこわばる身体をほぐすように、冷たい風が玄関に入ってきた。
直哉は、ポケットに手を突っ込み、冷たい風なんてもろともせずに、そとへでていく。
私は直哉に置いて行かれまいとまた直哉のその大きくなった背中を追いかけた。