また逢う日まで、さよならは言わないで。
外はまだ17時を回っていないのに暗かった。
もう秋は終わろうとしているのだろうか。
こうして、直哉と夜道を歩くのは慣れているはず。
なのに、怖かった。
目の前にいる直哉が今にでもどこかに行ってしまいそうで、消えてしまいそうで。
すごくすごく儚い存在のように思えてきて。
だからだと思う。
「……あのさ」
前を歩く直哉が、振り返りもせず、歩きながらそう声を出す。
「何?」
「俺、犬じゃないんだけど」
「……だって」
私は自然と直哉の服の裾をつかんでいた。
直哉は足を止める。
つられて私も足を止める。
そして、直哉は振り返って私のことをじっと見る。
急に振り替えるもんだから、つかんでいた服の裾をうっかりと離してしまい、あっ、と声が漏れる。
「……寂しいの?」
「え?」
顔をあげれば、いつもみたいに私に意地悪する前の直哉の顔があった。
そんな顔を見たら、なんだかさっき自分のしていたことがすごく恥ずかしく思えてきてしまって、私は再度うつむいてしまう。
「そんなんじゃないし」
そして、いつもみたいに強がってしまう。
「……ふーん。まあいいや。ほら行くぞ」
そして直哉は、また歩きかけていた道を再び歩き出す。
そうやって彼はきっと今日まであるいできたんだろう。
私の知らないところで、彼は彼の道を今日までずっと歩いてきた。
それを私は最近知ったまでに過ぎない。
「……來花」
直哉がゆっくりと私の前を歩きながら、そう私に話しかけてきた。
「何?」
「俺のやりたいこと、前何か聞いたよな」
「あ、うん」
「教えてやるよ、俺のやりたいこと」
そういって、直哉は、また立ち止まる。
そして、何かを見上げた。私も直哉と一緒に立ち止まって、直哉の視線の先を見る。
「……イチョウがどうかしたの?」
そこには、真っ黄色に染まった大きなイチョウの木があった。
「俺の生まれた世界は、四季がないんだ」
「まあ、四季がない国もこの世界にはあるけどね」
「だから、この国は綺麗なんだろ?」
そう言って、直哉が子供みたいに笑ったのがわかった。
久しぶりに見たかもしれない。
こんなに直哉が無邪気に笑うのは。
「作るよ、俺は。四季を俺は作る」
少年のような瞳でそう私に笑いかけてくる彼。
だからか。
春は桜に、夏は花火にホタル、秋は紅葉に。
直哉が魅了されていたのは。
それが直哉の、彼の夢だから。
鼓動が早くなるのがわかる。
自然と、頬が赤くなるのがわかる。
まずい。
そう思った。
この感覚を私はもう知っていた。
「……おばさんに怒られるから、もう行くか」
そういって、直哉はそんな私にかまわず、再びスーパーへの道を歩き出した。
私は直哉にはばれてはいけないと、必死に平然を装いながら、その後を歩いた――――。