また逢う日まで、さよならは言わないで。
その帰り道は、イチョウなんて目に入らなかった。
行きは直哉の後ろを歩いていた私だが、帰りは直哉の隣を歩いていた。
「あー、絶対にうすしおだと思うんだけど、俺は」
「そんな王道ばっかじゃつまんないでしょ。きっと酒飲みはのり塩くらいの味が濃いもののほうがお好みなんだって」
「それはお前の好みだろ」
「そんなことはあります」
「何肯定してんだよ」
事件はスーパーでおこった。
酒のつまみ且、自分たちでも食べられるお菓子として、ポテトチップスが合致したのはよかったものの、そこでの味選びに私たちはいつものように言い争いを始めてしまった。
2つ買えばいいところなのだが、お母さんからもらったお金は1000円。
そのうち、サキイカや、チーズやら指定されたものをかごに入れたところ、残りのお金で買えるのは一袋が限界だった。
お金を持っているのは私。
私は直哉が隣でぐちぐち言っていることはすべて無視して、問答無用でかごの中にのり塩を突っ込みレジへと持っていったのである。
口ではそう言っていても、直哉は自ら、会計が終わった荷物を持ってくれる。
「ま、いいじゃん。嫌いじゃないでしょ?のり塩」
「……そういうところだからな。カズヤ相手にも同じようなことすんのかよ」
「ずるいよ。そういうところに立花さんを出してくるのは」
そう言って笑って、私は直哉の肩を軽くたたいた時だった。
「噂をすれば……」
直哉の歩く速度が遅くなって、そうつぶやくように言った。
「何……」
つられて私の歩く速度も遅くなり、直哉の視線の先を私も見る。
そこには、こちらをみて優しく微笑む立花さんの姿があった。
「先入ってるから。ゆっくり話でもすれば?」
直哉はぼそっと私そう言ってから、私の返事も待たずに、先に家の中へと入ってく。
「……遅かったね」
そういって、立花さんはゆっくりと私の方へ近づいてくる。
「ちょっと、スーパーで直哉ともめて……」
のり塩かうすしおかでもめて遅くなったなんて、恥ずかしくて言えない。
「そっか。直哉とは前みたいに話せるようになったんだね」
そういって、立花さんは満足そうに笑った。
こんな優しい人に私は、あの夏なんてひどい言葉を浴びせたんだと、罪悪感で胸が苦しくなる。
「寒いから、早く中に入ろうか」
そういって、立花さんは、私に早く家の中へ入るよう、促す。