誘惑じょうずな先輩。
__ ピタ、っと足を止める。
香田……って、たぶん、いや、きっとわたしのことだよね。
バレないように会ってたつもりだけど、爪が甘かったことを痛感する。
何気ないわたしの幸せが、先輩のことを好きな人にとっては憎らしいものなんだっていまになって気づく。
その場から逃げたいのに、なぜか足が地面にくっついてとれない。
このまま、ふたりの会話やなにかしらを聞き耳立てるなんて……ぜったいイヤなのに。
「ゆんちゃんは関係ないよ」
ハッキリ言った先輩。
先輩がわたしの名前を呼んだことの嬉しさと、関係ないと切られた寂しさがごちゃごちゃになる。
先輩の言葉に、女の人は納得できないらしく、グイグイと問いつめる。
「ほら……っ、だって、女の子をあだ名でなんか呼んだことなかったじゃんっ」