誘惑じょうずな先輩。
「しょーがないね」
いつもより抑揚のない声。
甘い響きでさえ、感じられない。
先輩の機嫌が良くなくなった、っていうのは顔は見えないけれどわかること。
そして……、これからなにが起こるかなんて、考えたくもない。
そっと空き教室から離れて、自分の教室へもどろうと足を向ける。
……と。
「のぞき?」
「ひいっ……!」
なんとそこには夏川くん。
耳のピアスを手でいじりながら、だるそうに立っている。
え……、なんで?
目を見開いて固まっているわたしに、夏川くんはつまんなそうな瞳を向けてくる。
「のぞいてんの、香田さん。
わるい子だね」
「ち、ちがうよ……っ、」
「言い訳とかみっともねえよ」
「……」