誘惑じょうずな先輩。


こっちが焦って聞いたら、彼は心底面倒くさそうに口を開いた。




「俺がお前を探してた理由、」


「……あ、つけてたわけじゃ、ない、んだ」



「ひとをストーカーみたいに言うなよ」




だって、後ろに立ってたんだもん。

勘違いも許してほしい。



「香田さん、保健委員だろ。
ひとが怪我したら看るのが仕事じゃん」



「怪我?」


「そ、だからついてきて」




それからなにも説明する予兆すらなく、歩き出してしまった夏川くん。


しかも、歩幅が大きくて、歩くの早い。



「け、怪我したの、夏川くんじゃないの……?」



パタパタ早歩きをしながら、いちおう聞くけど、彼は「ちげーよ」とひとことだけ。


……看てほしいなら、もうちょっと教えてくれてもいいんじゃん。



そう思うけど、これ以上文句を言ったら機嫌を損ねそうだったから、先々歩く夏川くんに置いていかれないように保健室へ向かった。





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