誘惑じょうずな先輩。


万里先輩と、夏川くん。


このふたりが話してるの、違和感しかない。



けど、いまはそんな呑気なこと言ってられる場合じゃない。



「……ま、いいや」



おろおろするわたしのあいだで、険悪な雰囲気を醸し出して万里先輩と見つめあっていた夏川くんだけど、
ついに目を伏せ、わたしに声をかけた。




「香田さん。
自分がだれに守られたいのか、守りたいのか、しっかり考えた方がいいぜ」



「……、うん」




いつも、夏川くんは正しいことを言う。




「じゃ」




それだけ言うと、夏川くんはぐーんと伸びをして、
スタスタと保健室から出ていってしまった。




嵐が去ったように、シンと静まり返る部屋。



気まずくて先輩の顔を見れないでいると、「ゆんちゃん」って、さっきとはぜんぜんちがうゆるい声で呼ばれた。






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