誘惑じょうずな先輩。
顔を、あげる。
「……ごめん、俺、我慢できなかった」
「が、まん?」
なんの話……、だろう。
「そう。
ゆんちゃんがナツカワくんにキスされそうになってんの見て、見て見ぬふりとか、そんなのできなかった」
「あ、」
__ 触んないで。
そう言ってわたしを引っぱった万里先輩。
ほんとは、胸がドキドキして、しんどかった。
先輩の、独占欲みたいなのが垣間見えて、自分でも驚くくらい嬉しかった。
夏川くんに触れられてるくせに、なんて不謹慎、ってわかってるけど。
「……おれ、こんな気持ち、わかんねえの」
はあ、とため息をついて、無造作にくしゃくしゃと髪を乱す万里先輩。
先輩が苦しそうで、でも、いつもより考えてることがわかる気がして、すごく抱きしめたくなった。