誘惑じょうずな先輩。
前は、はぐらかされたこと。
いまなら、聞ける気がする。
そう思って胡子ちゃんを見つめると、彼女は戸惑ったような瞳を向けてきたけれど、観念したようにため息をついて、呟いた。
「わたしはねえ……、
好きになっちゃいけない人を好きになってしまったからさ、」
「好きになっては、いけない人……?」
どういうことだろう。
深刻な話をしているわりに、胡子ちゃんはあんまり苦しそうではなくて。
どこか割り切っている感じがした。
「そうそう、……ゆんはきっと心配するから言えなかったけど……、いわゆる、不良って呼ばれるひとを好きになっちゃった」
「え……、」
いままでわたしには遠いと思っていた、『不良』の存在。
けれど、いま身近に夏川くんというひとがいるせいか、あまり驚かなかった。