誘惑じょうずな先輩。


前は、はぐらかされたこと。

いまなら、聞ける気がする。



そう思って胡子ちゃんを見つめると、彼女は戸惑ったような瞳を向けてきたけれど、観念したようにため息をついて、呟いた。



「わたしはねえ……、
好きになっちゃいけない人を好きになってしまったからさ、」


「好きになっては、いけない人……?」



どういうことだろう。

深刻な話をしているわりに、胡子ちゃんはあんまり苦しそうではなくて。


どこか割り切っている感じがした。




「そうそう、……ゆんはきっと心配するから言えなかったけど……、いわゆる、不良って呼ばれるひとを好きになっちゃった」



「え……、」




いままでわたしには遠いと思っていた、『不良』の存在。


けれど、いま身近に夏川くんというひとがいるせいか、あまり驚かなかった。



< 134 / 303 >

この作品をシェア

pagetop