誘惑じょうずな先輩。
彼の怪我は、肘から腕にかけて軽く擦りむけていた。
……けっこう、暴れたなぁ。
だれかの手当をするのは、あの日以来。
神田くんの怪我をみたあの日。
ほかの男の子のことを考えたら、どうしても万里先輩が頭に浮かんできてしまうから、即座にみんな振り払った。
「あっ、あのっ……!」
治療に専念してそーっと消毒していたら、
急に上ずった声でそう話しかけられて、びっくりして思わず消毒液をこぼしそうになった。
なにやら覚悟したような……、
がんばってる感があって、ちょっと焦る。
わたし、そんなに話しかけるの怖いんだろうか。
ちがうとしても、あまり好ましくは思われてない感じ。
……うん、複雑。
でもそこは知らないふりで、「うん?」と問いかける。