誘惑じょうずな先輩。
ぎゅっと先輩のシャツを掴んで、自分でもびっくりするくらい切ない声が出た。
会いたかった。
話したかった。
名前を呼んでほしかった。
欲張りなのは、断然、わたしのほうだ。
まだ、先輩不足なの。
いつもみたいに、誘惑なんかしちゃってよ。
なんで、……離れていくの。
「…………なーに、」
長い沈黙のあと、先輩はわたしよりもちっちゃい声でそう言った。
わかってるくせに。
わざとじゃん。
……意地悪。
溢れ出そうな想いを抑えるだけで精一杯。
先輩がどう思うのかなんて気にしてられない。
「行か、ないで……っ」
先輩から離れるなんて耐えられない。
好きって二文字、伝えたい。
悲痛な心の叫びが、口からこぼれた。
先輩は、急に口元を覆ったと思ったら、なにやら呟いて。
「……かわ、…………もう、まって」
だけど、先輩は握るわたしの手を離した。