誘惑じょうずな先輩。
そーっと中に入ると、……誰もいない。
いつものことだから気にせず保健委員専用のイスに座って、暇だなあとまたスマホを取り出す。
……先輩に、電話しようか、な。
ふと、考えるけれど。
……何の用もないのに?
ただ声が聞きたいから?
1時間でこんなに寂しくなってるなんて、……わたし重症じゃん。
「へーえ、香田先輩、めっちゃ早矢くんのこと好きじゃないですか」
「自分でも思う…………、って、?!」
……待って、いま、なにか声が聞こえた、んだけど。
「どうも、来ちゃいました」
「ひ、日向くん……?!」
慌てて振り向くと、にこり顔の日向岳くん。
いっしゅんだけ、万里先輩に見えちゃったり。
頭がフリーズする。
だ、誰もいないと思ってたのに……!
なんで?
わたしが困惑の表情を浮かべているのに気づいたのか、日向くんは嬉しそうに言う。